豆腐・納豆製造業の許可取得への道
こんにちは、元保健所職員で薬剤師のモトヒロです。
このブログでは食品の安全性や衛生管理に関する話題を取り上げています。
今回は、豆腐・納豆などの大豆加工食品の製造・販売を考えている方向けに、「豆腐製造業」「納豆製造業」の営業許可取得について解説します。道の駅や直売所で手作り豆腐を販売したい農家の方、ふるさと納税の返礼品として納豆を製造したい方にも参考になる内容です。
同じ大豆加工品でも、この2つは押さえどころがまったく違います。豆腐は食品衛生法で製造基準・保存基準がきっちり定められている数少ない食品のひとつ。一方の納豆は基準そのものが定められていない代わりに、工程管理と「他の食品を汚染しないこと」が勝負どころになります。
豆腐・納豆製造業の市場と現状
許可を規定する法律の概要
豆腐の規格基準
納豆の衛生管理のポイント
施設基準の要点
申請の流れ
よくある注意点・落とし穴
おわり
1. 豆腐・納豆製造業の市場と現状
豆腐/全国の豆腐製造施設は6,143施設(2018年度)。1960年のピーク時には5万件を超えていましたから、約60年で約1割にまで減ったことになります。業界全体の売上規模は横ばいで、価格競争と後継者不足による倒産・廃業も続いています。
その一方で、地元産大豆を使った「地豆腐」、天然にがりにこだわった職人製豆腐、豆乳やおからを活かしたスイーツなど、小規模だからこそできる差別化商品には確実に光が当たっています。道の駅・直売所・ECを販路に考える生産者の方からのご相談も増えています。
納豆/業務用を含めた市場規模は2,874億円(2024年、前年比6.6%増、全国納豆協同組合連合会調べ)。健康志向を追い風に堅調で、大手が強い市場ではありますが、地域ブランド納豆、わら納豆、ひきわり、大粒・黒大豆といった個性で勝負する中小メーカーへの関心も高まっています。
2. 許可を規定する法律の概要
豆腐・納豆ともに、食品衛生法第55条に基づく営業許可が必要です。2021年6月施行の改正食品衛生法で許可業種が32業種に再編され、「豆腐製造業」(食品衛生法施行令第35条第22号)と「納豆製造業」(同第23号)は、それぞれ独立した許可業種として位置づけられています。
豆腐製造業の許可でどこまで作れるか
意外と知られていないのが、豆腐製造業の許可がカバーする範囲の広さです。政令上の定義は「豆腐を製造する営業又は豆腐と併せて豆腐若しくは豆腐の製造に伴う副産物を主原料とする食品を製造する営業」。具体的には次のようなものが含まれます。
焼豆腐、油揚げ、生揚げ、がんもどき
ゆば、凍り豆腐
豆乳(ただし密封・密栓された清涼飲料水たる豆乳を除く)
おからドーナツ など
つまり「豆腐屋さんが豆腐のついでに作るもの」は、おおむね1つの許可で足ります。ただし豆乳だけは例外があるので、後半の「落とし穴」で詳しく触れます。

資格とHACCP
資格面では食品衛生責任者の設置が必要です(上位資格である食品衛生管理者の義務はありません)。調理師・栄養士・製菓衛生師・薬剤師などの資格保持者はそのまま就任でき、無資格の場合は各自治体の養成講習会(1日)を受講します。
また2021年6月からはHACCPに沿った衛生管理が全事業者に義務づけられています。小規模事業者は業界団体が作成した手引書を使う「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」で対応でき、豆腐・納豆いずれも手引書が公開されています。ゼロから作る必要はありません。
3. 豆腐の規格基準
豆腐は「食品、添加物等の規格基準」(昭和34年厚生省告示第370号)で基準が定められています。数ある食品のなかでも基準が明記されている珍しいタイプなので、まずここを正確に押さえてください。

製造基準(加熱条件)
木綿・絹ごし・寄せ豆腐、豆乳、おから … 豆汁または豆乳を沸騰状態で2分間加熱、またはこれと同等以上の方法で殺菌(手引書による煮沸温度の目安は97〜106℃)
包装豆腐(豆乳に凝固剤を添加して容器包装に充填した後加熱凝固させたもの(無菌充填豆腐以外のもの)) … 90℃で40分間、またはこれと同等以上の加熱
無菌充填豆腐(連続流動式の加熱殺菌機で殺菌した豆乳に、殺菌または除菌した凝固剤を加え、殺菌済みの容器包装に無菌的に充填してから加熱凝固させたもの。常温流通が可能) … 豆乳は中心温度120℃で4分間、またはこれと同等以上の方法で殺菌/凝固剤は微生物を死滅または除去するのに十分な方法で殺菌・除菌
保存基準
「冷蔵するか、又は十分に洗浄し、かつ、殺菌した水槽内において、冷水(食品製造用水に限る。)で絶えず換水をしながら保存しなければならない」
ただし、移動販売に係る豆腐、成型後に水さらしをせず直ちに販売用に供される豆腐、無菌充填豆腐はこの限りではありません。水槽で売る昔ながらのスタイルも、「殺菌した水槽」「食品製造用水」「絶えず換水」の3条件をクリアして初めて認められる、という点にご注意ください。
成分規格
常温保存を前提とした無菌充填豆腐については、「当該豆腐中で発育し得る微生物が陰性でなければならない」が求められます。一方、通常の冷蔵流通の豆腐に成分規格の定めはありません。ただし成分規格が無い=検査不要ではなく、製造基準・保存基準の遵守と、自主検査による期限設定の裏づけが必要です。
現場での重要管理点
手引書ベースでは、次の4点を記録に残す形で運用するのが基本形です。
煮沸の温度・時間(沸騰状態で2分以上)
包装豆腐の加熱殺菌(90℃・40分)
包装後すみやかに(目安2時間以内に)10℃以下へ冷却
井戸水を使う場合は年1回以上の水質検査(一般細菌・大腸菌は必須項目)
4. 納豆の衛生管理のポイント
納豆には、食品衛生法上の成分規格・製造基準・保存基準が定められていません。「基準が無いから楽」ではなく、基準が無いからこそ工程管理がすべて、というのが実務の感覚です。

管理のポイントは3つです。
蒸煮が唯一の加熱殺菌工程 … 納豆は加熱してから食べる食品ではないので、蒸煮で微生物を確実に落としきる必要があります。ここが崩れると後工程でリカバリーできません。圧力・温度・時間を記録しましょう。
接種は蒸煮直後の熱いうちに … 納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)を高温状態で一気に接種して優占させることが、雑菌に「先を越されない」ための最大の防御になります。冷めてから接種するほどリスクが上がります。
発酵室と熟成庫の温度管理 … 発酵温度が高すぎる・長すぎるとアンモニア臭や過発酵の原因に。発酵後は速やかに冷却し、低温熟成に移します。温湿度の連続記録が取れる設備にしておくと、HACCPの記録づくりが一気に楽になります。
5. 施設基準の要点
施設基準は、全業種共通の共通基準と、業種ごとの特定基準の2階建てです(実際に適用されるのは各自治体の条例なので、細部は必ず管轄保健所でご確認ください)。
共通基準(主な項目)
製造室が居住スペースや汚染区域と区画されていること
床・壁・天井が清掃しやすく、耐水性のある材質であること
食品製造用水(水道水または同等の水質)の給水設備
製造室内の手洗い設備(洗浄・消毒剤、ペーパータオル等を含む)
便所、冷蔵・冷凍設備、廃棄物容器 など
豆腐製造業の特定基準
イ 原材料の保管および前処理、製品の製造および保管をする室または場所を有すること
ロ 製造をする室・場所は、殺菌および冷却に必要な設備を有し、必要に応じて包装するための設備を有すること
ハ 無菌充填豆腐を製造する場合は、連続流動式の加熱殺菌機ならびに充填および密封に必要な設備を有すること
ニ 豆腐を主原料とする食品(油揚げ、がんもどき等)を製造する場合は、必要に応じて冷凍、乾燥、油調等をするための設備を有すること
納豆製造業の特定基準
イ 原材料の保管、前処理、発酵および熟成、製品の製造および保管をする室または場所を有すること
ロ 原材料の蒸煮、発酵および冷却、製品の包装に必要な設備を有すること
条文だけ読むとあっさりしていますが、豆腐なら「殺菌と冷却の設備が要る」、納豆なら「発酵・熟成をする室または場所を確保する」(実務上は分けておくのが理想)という点が、図面上ではっきり読み取れることが大切です。
6. 申請の流れ
保健所への事前相談(施設図面を持参。工事着工前が鉄則)
食品衛生責任者の確保(資格保持者の就任、または養成講習会の受講)
施設の整備・改修(事前相談で指摘された点を反映)
申請書類の提出(営業許可申請書、施設の平面図・設備配置図、食品衛生責任者の資格証明書、法人の場合は登記事項証明書、水道水以外を使う場合は水質検査成績書 ほか)
保健所による施設検査(立会いが必要)
許可証の交付(申請から交付までおおむね2〜3週間)
いちばん多い失敗は、事前相談より先に工事や改修を進めてしまうパターンです。改修後に指摘が入ると、工事のやり直しで数十万円が飛びます。図面ができた段階で必ず一度、保健所へ。これだけで結果がかなり変わります。

7. よくある注意点・落とし穴
①豆乳は「どう売るか」で許可区分が変わる
豆腐製造業の範囲に含まれる豆乳は、密封・密栓された清涼飲料水たる豆乳を除くとされています。つまり、店頭での量り売りは豆腐製造業でカバーできますが、パック詰め・ボトル詰めにして流通させるなら清涼飲料水製造業の許可が別途必要になります。「せっかくだから豆乳もボトルで売ろう」は、事前相談の段階で必ず伝えてください。
②納豆菌のクロスコンタミは「よそ様への迷惑」になる
納豆菌は芽胞をつくる非常に強い菌で、一度施設内に定着するとなかなか排除できません。同一施設や近隣で、酒・味噌・醤油・パン・チーズ・乳酸菌飲料など別の微生物を使う食品を扱っている場合は、区画・動線・作業着・作業時間帯の分離を徹底してください。酒蔵の方が納豆を食べない、という話は迷信ではなく実務上の合理性があります。
③遺伝子組換え表示は2023年4月から厳格化
大豆は遺伝子組換え表示の義務対象です。2023年4月の制度改正により、分別生産流通管理を行い意図せざる混入が5%以下であれば「大豆(分別生産流通管理済み)」等と表示できますが、「遺伝子組換えでない」と書けるのは混入が検出されない場合のみになりました。国産大豆を使っていても、この文言を安易に使うのは避けてください。
④期限表示には科学的根拠が要る
豆腐は消費期限が短い食品です。日持ち試験(微生物試験・理化学試験・官能検査)の結果に基づいて期限を設定し、安全係数(0.8程度)を掛けるのが基本。「だいたい3日くらい」で決めることはできません。ラベル案は販売開始前に保健所で確認してもらうことをお勧めします。
⑤井戸水を使うなら水質検査を忘れずに
豆腐は製造にも水さらしにも大量の水を使います。井戸水・湧水を使う場合は食品製造用水の要件を満たす必要があり、年1回以上の水質検査(一般細菌・大腸菌は必須)と成績書の保管が求められます。
⑥許可は業種ごと。豆腐と納豆の両方なら許可も2つ
1つの施設で両方を製造する場合、許可申請も施設検査も2件分です。施設基準もそれぞれ満たす必要があります。②の汚染リスクとあわせて、レイアウトは最初から2業種前提で設計するのが結果的に近道です。
おわり
以上が、豆腐製造業・納豆製造業の許可取得に向けた基本的な解説です。豆腐は「基準を守れていることを記録で示す」仕事、納豆は「工程を安定させ、他所を汚染しない」仕事――同じ大豆でも管理の重心が違う、という点をつかんでいただけたなら幸いです。
施設基準の細かな要件は自治体の条例によって異なりますので、まずは管轄の保健所への事前相談からスタートしてください。反響があれば、次回は豆腐・納豆のHACCPプランの具体的な作り方や、表示ラベルの実例について解説できたらと思います。
許可取得や衛生管理でお困りの方は、ぜひ当事務所にご相談ください。それではまた!!




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